古いルビーと新しいルビー…ミャンマー産は新しいルビー

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<画像及び文章:石と人間の歴史 / 地の恵みと文化 蟹澤聰史著 中公新書より引用>

水中や大気中で、岩石や鉱物の破片、生物の遺骸、さらに水中に溶解していた物質などが沈積、または科学的に沈殿したものを堆積物という。このような堆積物が厚く重なり、荷重がかかって固結したものが「堆積岩」となる。堆積岩の大部分は水の作用によってできたもの、あるいは水中に堆積したものなので、水成岩とも呼ぶことがある。火成岩や堆積岩に圧力や熱が加えられると、そこに含まれている鉱物の結晶が大きく成長したり、鉱物同士が化学反応を起こして、変成岩となる。片麻岩や結晶片岩、あるいは大理石などは変成岩である。大陸地域でも海洋地域でも、地球の表面はプレートと呼ばれるいくつかの大きな板状の部分に分割されている。これが互いに移動しながら影響を及ぼし合っているという考え方をプレートテクトニクスと呼ぶ。プレートテクトニクスは、1960年代に提唱されたもので、現在では地球上における地震活動や火山活動、地質学的なあらゆる現象がこの理論で説明されている。大陸プレート同士が衝突したり、海洋プレートが大陸プレートに沈み込んだりすると、そこでも圧力や温度が上昇して、変成岩を生じる。<引用ここまで>

ミャンマー産ルビーは、このプレートテクトニクスいより南極の場所にあったインドが気の遠くなるような(2~4億年)時間をかけて移動し、ユーラシアプレートと衝突したことで起こった接触変成作用で結晶化した宝石です。上の図の左側の衝突帯と記述がある部分です。

ルビーには、6億年前に南半球で結晶化して世界各国で産出する「古いルビー」とこの接触変成岩起源の2000万年前に結晶化した「新しいルビー」がありますが、その新しいルビーが育つ母岩である大理石の主成分も、ルビーを赤くする着色成分も両方、太古に生きた「生命」が供給源になっているところ…古くからルビーの宝石言葉に「生命」というものがありますが、人の感性がそれを感じていたとしたら驚きです。

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以前にもご覧頂きましたが、接触変成岩起源のルビーと玄武岩起源のルビーの違いは、紫外線域の光線にあたった時の反応です。

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左が玄武岩起源、右が接触変成岩起源(ミャンマー産)のルビーです。

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この鮮赤色反応は、太古よりルビーの伝説に登場しており不思議な輝きが人々を魅了してきました。

ミャンマー産(旧ビルマ)ルビーが特別たる所以です。

 

宝石ルビー…品質が高いから、宝石としての価値が高いとは限らない

宝石ルビーの「価値」と「品質」について…よく「高品質=価値が高い」と考えてしまうのですが、正確には高品質であっても宝石ルビーとして価値が高いとは限りません。

例えば、同じ高品質で同じサイズのルビーであっても、タイ産の加熱処理をして美しさを改良したルビーとミャンマー産の無処理で美しいものでは、宝石として見た場合、価値は全く違います。

同じ高品質であっても「原産地」と「処理の有無」の部分が違うために宝石としての価値が大きく違うのです。

2013年の香港で行われたクリスティーズの結果は、それをよく表しています。

ミャンマー産の無処理で美しいルビー7ctのモノが2.3億円で落札

更にそれよりも品質が確実に高いタイ産の加熱処理をした9ctのルビーは400万円。

ctあたりの価格は100倍の差が付きました。

高品質だから宝石としての価値が高いとは限らない分かり易い例です。

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宝石の品質は…

上記の通り

①宝石種類 ②原産地 ③処理の有無 ④美しさ ⑤色の濃淡 ⑥欠点 ⑦サイズ で、その価値は、宝石の種類ごとの需要と供給のバランス、歴史と慣習などが影響します。

 

 

天然無処理で美しいルビーのインクルージョンは、人でいう指紋

天然無処理で美しいルビーには、ほぼ必ずといっていいほど、その他の結晶のインクルージョン(内包物)が見られます。
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顕微鏡で見れば、自然の結晶そのままの形を観察することができます。

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15年間、ミャンマー産のルビーのインクルージョンを撮影してきて感じるのは、それは人の指紋のようなものだということです。

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ある法則のもとで、形になっているけど、全く同じものを見たことがない。そのインクルージョンは、そのルビーの個性であり、インクルージョンの写真から、そのルビーを特定することができます。

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また、大きなポイントとして、インクルージョンを毎日見ていると、加熱などの処理をして美しさを改良したモノがわかるようになります。


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熱により変化した結晶を見ると、不自然な姿をしているのです。

今日は、天然無処理で美しいルビーのなかにある結晶インクルージョンの写真をどうぞ。

ルビーの品質別の出現率と最高品質(ジェムクオリティの希少性)

 

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天然ルビー(無処理で美しい)はとても希少性が高く、文字通り「宝探し」です。

産出されるルビーの原石がすべて品質の高い宝石であれば良いのですが、自然は人の都合には合わせてくれません。産出されるほとんどは、透明度が無く、磨いても宝石として使えない品質の原石です。下の写真のように、珍しいモノではありません。これを加熱などの人為的な処理をして商品化したのが、一般に流通するルビーです。

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これらの美しさに欠ける原石は、無処理で宝石として使うことができませんので、私たちプロが宝石を見分ける時に使う下の図クオリティスケールの枠の中に入りません。美しさをレベルの高い方からSABCDの順で、色の濃淡を左の番号で表すモノですが、美しさはDの枠の外になります。

 

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さて、天然無処理で美しいルビーの品質をクオリティスケールで見た場合、SかAは特に美しいモノで、色の濃淡は6か5が青いエリアに区分されますが、ジェムクオリティと呼ばれる最高品質で資産性があるモノです。グレーのゾーンもジュエリーなどに使われる美しいモノ、黄色のアクセサリークオリティでも充分にアクセサリーとして普段から楽しめる品質です。ですから、Dの枠に入らない原石は、いくら美しくても人為的に処理をして美しさを改良したルビーなので、潜在的に持つ価値は、黄色よりも低いことになります。

 

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さて、モリスは、出現率を調べるためにミャンマー北部のNam-Ya鉱山で4年間採掘を行いました。現場で出現率を調べた宝石商は、世界で初めてだったはずです。上記の写真は、日本宝石学会で発表したモノですが、天然無処理で美しいルビーの青い枠の中に入っている1ctを超えるルビーが見つかる確率は、天然無処理で使える原石の中でも2200個に1個の割合でした。

需要と供給のバランスで見た場合、青い枠に入るルビーの価値は驚くほど高くなります。

つい先日、サザビーズという欧米のオークションで、青い枠に入るルビーが、8ct(1.6g)9億円で落札されましたが、なぜその様な値段がついてしまうのか?というと希少性が極端に高いからです。

研磨する前に、ルビーの原石をどの様に評価するのか?

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上の写真は、ルビーの研磨前と後です。

1ctあった原石は、0.65ctのルース(ルビーの裸石)になりました。職人さんは、この道50年の大ベテランの方で、テーブル面の取り方も含めて、貴重な最高の仕上がりです。

さて、研磨作業をする前に、どの様な形に、どこをテーブル面に決めてカット研磨する判断をしているのか?

 ルビーの結晶には、軸があり軸に対して垂直にテーブル面を持ってこないと、色が二色に分かれてピンク色とオレンジ色が混ざった残念な赤色になってしまいます。

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ルビーの結晶の縦軸に対して平行にテーブル面を取ってしまうと、色が青い線と赤い線で表したように2色に分かれるからです。

二色鏡などを使ってどちらが軸なのかを見分けるのが大切ですが、慣れれば目視でもどちらが軸か分かるようになります。

もう余りないルビーの原石を探す鉱山が教えてくれること

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ルビーの鉱山に行くと、ルビーの原石、鉱区に説教をされたような気持ちになります。

「地球の自然は、あなた方、人間たちだけのモノではないぞ…」

そこで、ルビーを探す人々にも教えて頂きます。

「自然が相手だぞ、都合の良いところに都合よくルビーがあるわけない、あなた方、都会から来た人たちは、それが分かっていない」

写真はプライマリーソース(岩石を削岩しながら掘り進む採掘方法)ですが、地下深くお魚の骨のように洞窟が掘られています。…ルビーの採掘は、ほんの少ししか出てこない宝石ルビーを探すために大量の大理石が砕かれ、土砂が削られていくのです。そして、何百年と続けられたルビーの採掘で、地下深く掘られたルビーの鉱脈は、もう余りありません。資源が枯渇しているのです。ルビー一つ見つけるために一体どれだけの岩が砕かれてきたのか?

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私たちモリスは、ルビーの資源の枯渇に直面する時期に生まれたルビー専門の宝石商です。そこに何となく「使命」を感じるのです。

モリスルビーを有名にしながら、その事実を世に広めなければなりません。

 

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そして、ルビーをプレゼントしてくれた鉱区の跡地が、石炭を掘った跡地のように荒廃せずに、美しく、また別の姿になって発展して行かなくてはならないと…また、世界中で進んでいる環境破壊も消費地で資源を消費する人々の意識不足が原因の一つだと思いますので、このルビーがそれを知る一助になれば私たちモリスが現地に行った意味があると感じるのです。

嫌なことを無視するのではなく、積極的に取り組めば、必ず新しい価値観が生まれるはず。それが、地球の資源の限界に直面した私たちの世代の役目なのかも知れません。

ルビー母岩を皆で分け与えるという発想…ミャンマーの精神性

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モゴック鉱山の近辺には、この様にルビーの白い母岩の欠片が、たくさん積み上げられていることを見ることがありますが、これは、近くの鉱山から運び出されたモノです。鉱山主は、まだルビーが、白いルビーの母岩の中に入っていることを知っています。それでも、こうやって運び込んでは、母岩の山を置いてゆくのは…全部一人で取ってしまわずに、分けられる限り分けよう…という精神が基になっています。

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上の図の白い大理石(白雲石灰岩)の中にルビーが入っていることがあります。村人たち、特に女性、子供たちが、鉱山主が置いていった原石を割ってルビーの原石を探します。村人であれば、料金は要らないのです。だから、時間があるとお母さんと一緒にルビーを探しに行く村人に出会います。

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こういうところに、自然な形で仏教国ミャンマーを感じます